プログラマティック広告の世界的カンファレンス「Programmatic i/o in NY」参加レポート(後編)

2016年10月末にニューヨークで開催されたプログラマティック広告のカンファレンス「Programmatic i/o」。今回fluctから執行役員の今井が参加してきたので、イベントの内容をレポートしたいと思います!
本記事はイベントレポートの後編です。前編はこちらで公開しています。

ピックアップキーワード(つづき)

Audience Targeting(オーディエンスターゲティング)

目新しいワードではないように思われるAudience Targeting(オーディエンスターゲティング)ですが、改めて広告主は買い付けるオーディンスをより正しく把握したいと考えている様子が窺えました。広告主は、ユーザーのエンゲージメントを高めるためにユーザーのインサイトと購入までのプロセスを理解し、ユーザーへの接触回数や心理状況などによってメッセージ、クリエイティブを最適化していくべきです。Googleも今年の初めにProgrammatic Guaranteed(プログラマティックギャランティード)への対応を発表して「オーディエンス×広告枠」の予約優先取引を推進するとアピールしていました。
Tubemogul社Phil氏のProgrammatic i/o ny資料より

Tubemogul社Phil氏のProgrammatic i/o ny資料より

※DoubleClick by Google「Programmatic Guaranteed: Available to advertisers and publishers globally

Video/TV Ads(動画広告、テレビ広告)

日本でも近年動画広告は注目を浴びていますが、アメリカではそれ以上に熱心に研究され、広告主にとって動画広告でのマーケティングの成功が次の勝者を決めるといった雰囲気が感じられました。この背景には、日本とは異なるケーブルテレビ文化があります。日本の動画広告といえば、インターネット上の動画コンテンツ内やバナー枠に配信されることが多いですが、アメリカではケーブルテレビが数多く存在し、そのチャネルの数は膨大でターゲットも分散されることから、テレビも動画広告をプログラマティックに配信するためのコンテンツとして認識されています。また、ケーブルテレビはタブレットデバイスで見られることも多く、動画広告を配信するデバイスとして、PC、スマートフォンだけでなくタブレットやテレビも注目されています。このようなことから日本とは違いアメリカで数年前に登場した”Programmatic TV”はさらに進化を遂げ、セッションの中では新しく”AdressableTV”という概念も登場しました。マーケティング活動が目指す理想にテクノロジーが近づいているのではないでしょうか。
 つまりこれから広告主がやりたいことは、クロススクリーン(スマホ、PC、タブレット、テレビ)×フォーマット(インストリーム、インバナー、インタースティシャル、ネイティブ)×クリエイティブ×オーディエンスを組み合わせて、ユーザーのエンゲージメントを高めていきたいということです。これは既存の仕組みだけでは対応しきれないこともあるので、今後このあたりのテクノロジーを携えたプレイヤーが増えていきそうです。

ここで補足になりますが、日本ではあまり聞かない「AdressableTV」という概念が登場したのでテレビ広告枠の買い付けについて従来のものと比較してみました。
 

Traditional TV Ad Buying(従来)

  • ニールセンのGRPデータを使って、年齢や性別をセグメントし、事前にTVスポット枠を直接テレビ局(ブロードキャスター)から購入する
  • プログラマティックの技術は(もちろん)使わない

 

Programmatic TV(スポット単位)

  • データプロバイダーが提供するデータから、ターゲットとするオーディエンスのセグメントを決め、そのセグメントが多くいるTVスポットをプログラマティックの技術を使って買い付ける
  • 指定したTVスポットをターゲット以外が観ていたとしても、そのTVスポットを見ているユーザー全員に広告が配信される

 

Addressable TV(スポット×世帯単位)

  • Programmatic TV同様、ターゲットとするオーディエンスのセグメントを決め、世帯単位でリアルタイムに対象となるテレビを買い付ける
  • 情報を届けたいオーディエンス(世帯)を選んで広告配信出来るため、無駄な広告配信を防ぐことができる

 

Latency(レイテンシー)

今回、レイテンシーと呼ばれるデータ処理遅延の話題も多く出てきました。DNS企業がRTBの収益性の改善をサポートしている事例が取り上げられたり、ユーザーのコンテンツ体験を損ねる要素としてレイテンシーが語られました。中でもDyn社とCox Enterprises Media & Technology社のエクスチェンジの取り組みに関するセッションでは、「配信スピードの重要性」と、「配信スピードと収益改善の関連性」について議論が行われました。アドブロック問題やユーザーエクスピリエンスとレイテンシー問題は密接に関わりながら、例えばSSAS(アドスティッチング)やGoogleのExchangeBiddingなどサーバーサイドでの通信で広告が配信されていく方向性で議論されることも多々ありました。
Tubemogul社Phil氏のProgrammatic i/o ny資料より

Dyn社Scott氏のProgrammatic i/o ny資料より

※DoubleClick Publishers Blog「Improving yield, speed and control with DoubleClick for Publishers First Look and exchange bidding

Complexities(複雑さ)

最後のキーワードになるのが”Complexities”(複雑さ)です。過去にも何度も議論されてきたことにはなりますが、広告予算の大半が中間業者(代理手やベンダー)のマージンとなってしまい、メディアに十分な収益がもたらされないというマーケット課題があります。単に運用の煩雑さというだけでなく、取引の透明性と責任の所在を明確にしたいといった意見が出ていました。広告主とメディアの間をシンプルにしようと模索を続けるなかで、いかにデータの透明性を確保し、自社に合った独自の技術・資産を持ったベンダーとパートナーシップを築くかが語られました。
BrightRoll社Thomas氏のProgrammatic i/o ny資料3ページ目

BrightRoll社Thomas氏のProgrammatic i/o ny資料より

最後に

まず言いたいのは、ひとつの事象を切り取って日本の市場と海外の市場を比較するべきではないということです。
例えば、USやヨーロッパの市場では、広告主のデジタルマーケティング費に占めるブランディングを目的として出稿費比率は40%を越え※1Programmatic i/oのようなイベントでもブランディングについて多く話されます。日本でプログラマティック広告に携わる方はこの数値を聞いてどのような印象を受けるでしょうか。大半の方が、ブランディング目的の出稿はそんなに多くないと感じていると思います。
またアメリカでは、2015年にアドブロック普及率が既に20%を上回っており、今や30%を目前にしているため※2、デジタルマーケティング市場全体における課題として議論されています。しかし、日本でのアドブロック普及率はロイター通信調べによると10%程度※3で、まだアドブロックの波は来ていません。
このように、マーケティングの目的そのものやユーザーの状況、環境に違いがあることを理解しながら、どういった要素をProgrammatic i/oから学び、気付きとして持ち帰ることができるかが重要だと考えています。
今回のカンファレンスでは、メディアサイドはいかに価値のある在庫を広告主に届けるか、広告主サイドはいかに価値のあるユーザーを理解してメッセージを伝えていくか、というシンプルで本質的なテーマで話されていました。アドフラウド対策やPMP、ヘッダービディングへの対応はあくまで手段であり、カオスマップと呼ばれる市場の中で、広告主と一般消費者をメディアとテクノロジーを通じてきちんと繋げていくことがデジタルマーケティングに携わる我々の役割です。今の日本の市場において、一つ一つの課題に向き合いながら、健全なエコシステムを作っていかなければいけない。そんなアタリマエのことを再認識する非常にいい機会となりました。今後も日本のデジタルマーケティング市場を盛り上げいくために、たくさんの方と議論していきたいと思いますので、是非気軽にご連絡ください。

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