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デジタル広告を取り巻く悪循環と、パブリッシャーがチャレンジしたい新たな取り組み

2017.04.17 3979view
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インターネット広告費が順調に増加していることは、明白な事実です。電通の発表によると、2016年の日本のインターネット広告費は初めて1兆円に達しました。そのうちのプログラマティック広告やリスティング広告、SNS広告といった運用型広告が7割を占めており、インターネット広告費を牽引しています。今後は動画広告のニーズの拡大などにより、2020年には1.6兆円に到達する見込みです。e Marketer / Digital Ad Spending in Asia-Pacific, by Country, 2015-2021(March 16, 2017)

この運用型広告、特にプログラマティック広告の進化は、取引の自動効率化、配信プロセスにおけるデータの活用などによって、広告主に好影響をもたらしました。一方、プログラマティック取引が主流になるにつれ、プレミアムな媒体以外の純広告は売れなくなり、そうしたパブリッシャーサイドの売上は低下していきました。現在そのパワーバランスは広告主側に傾きつつあります。

デジタル広告を取り巻く悪循環

プログラマティック広告のエコシステムは、売り手と買い手の絶妙なバランスにより成り立っています。このバランスが広告主に傾いていることにより、次のような悪循環を生み出しています。
当然ですが、広告主は費用対効果を効率化させるにあたり、低コストなインプレッションを追求します。すると、必然的に1枠あたりのCPMは下がり、PV単価も下がります。パブリッシャーは収益を上げるため、より多くのコンテンツを生み出そうとし、コンテンツあたりの制作コストを下げざるを得なくなります。低コストで作られたコンテンツにより媒体の質は低下し、ユーザーとのエンゲージメントの低下をもたらします。エンゲージメントの低い媒体は価値を認められず、広告主による出稿が減り、更にCPMは下がります。結果としてパブリッシャーの売上は低下し、広告主にとっても予算を投下できる媒体が減ってしまうという悪循環を起こしてしまっているのです。

IAB年次リーダーシップ会議において、Conde NastのCBO(最高ビジネス責任者)であるJim Norton氏は「パブリッシャーが(広告枠在庫)供給を増やし、コンテンツ・クリエイションは手抜きをすることで、代理店や広告主が求める効果の限度に見合うようにすると、品質を作り出すための十分な売り上げが保てないという悪循環に陥る」と述べていますが、デジタル広告業界はまさにこうした状況に陥りかけています。2016年末に持ち上がったキュレーションメディアの問題は、こうした悪循環を象徴しています。また、プログラマティックの仕組みを逆手に取ったアドフラウドの問題や、プラットフォームへのコンテンツ分散化は、こうした流れにより拍車をかけています。

こうした背景がある中で、パブリッシャーは新たな取り組みにチャレンジし、より高品質なコンテンツを生み出すことでメディアとしての価値を高めていく環境が整いつつあります。そのキーとなるのが、「透明性の確保」「課金制の導入」です。まずは「透明性の確保」について説明していきます。

第三者機関の計測による透明性の確保

「透明性の確保」とは、パブリッシャーが自身のメディアの広告枠の価値を第三者の計測機関を通して証明することでその価値を担保し、メディアの収益性を高めるという動きです。
透明性はデジタル広告業界全体の課題ではありますが、当然パブリッシャーにも求められている要素です。特に計測における透明性は、アドフラウドやビューアビリティの課題が近年注目を浴びる中、その重要度を増しています。そうした背景から、計測には中立なサードパーティベンダーを導入するべきとする考えが徐々に広がっています。海外ではKellogやKraft Foods Groupなど一部の大手ブランドが、サードパーティによるビューアビリティ検証ができないパブリッシャーから広告予算を引き上げたという事例があります。

こうした動きを受け、米YahooはcomScore、DoubleVerify、Integral Ad Science、Moatという4社のサードパーティを導入しました。Facebookも広告の計測にMoatを導入、Instagram内の広告にも展開しています。またGoogle傘下のYoutubeも、comScore、DoubleVerify、Integral AdScience、Moatの多数のベンダーでの計測を承認しています。

中立な第三者機関による広告計測に対し、パブリッシャーはけして受け身というわけではありません。AppNexusによると、調査をした292の出版社のうち92%が、視認性の向上がビジネスに利益をもたらすと感じていると回答しています。ビューアビリティ保証をされた広告、つまりビューアブルインプレッション(vCPM)での取引により、その広告枠は多くのブランド広告主や代理店からの需要が高まり、またvCPMは当然、従来のCPMよりも単価が高くなるからです。

eCPM単価とvCPM単価の比較
eCPM vCPM
320×250 $0.65 $1.64
160 x 600 $1.11 $1.81
728 x 90 $0.49 $1.18
320 x 50 $0.65 $1.76
Mobile Interstitial(※) $4.62 $6.10

出典:eMarketer Digital Ad Pricing StatPack: Programmatic Display CPMs and Pricing Trends
期間:2016年 10月-12月
媒体:モバイルウェブサイト(※のみモバイルアプリ)
地域:全世界

購読モデルによる課金制の導入

2つ目のキーとなるのは「課金制の導入」です。Webメディアで課金制を確立させることは簡単ではないものの、購読モデルを採用するインターネットメディアはニュースメディアなどから徐々に増えつつあります。海外では、2002年に英Financial Timesが導入したのを皮切りに、米The Wall Street Journalが続きました。2016年5月のAOLの調査によると米国のパブリッシャーの9%が購読モデルで成り立ち、78%が広告モデルと購読モデルを併用しているということがわかりました。

日本でも、日経新聞が2010年から有料媒体の日経電子版を立ち上げたのち、2016年4月の時点で33社の新聞社が47サービスに購読モデルを展開をしています。また、雑誌やコミック、動画配信サービスでも課金制によるサービスが台頭してきました。

全国紙
媒体名 課金形態 料金
日経新聞
(日経電子版)
定額課金/
従量課金
4,200円/月
※無料会員登録で10記事/月まで閲覧可能
※紙面購読中の場合1,000円/月で全ての記事を閲覧可能
朝日新聞
(朝日新聞デジタル)
定額課金/
従量課金
3,800円/月
※無料会員登録で1記事/日まで閲覧可能
※紙面購読中の場合1,000円/月で全ての記事を閲覧可能
毎日新聞
(デジタル毎日)
定額課金/
従量課金
3,200円/月
※無料会員登録で10記事/月まで、非会員でも5記事/月まで閲覧可能
※紙面購読中の場合追加料金なしで一部の記事を閲覧可能、500円/月で全ての記事を閲覧可能
産経新聞
(産経電子版)
定額課金 1,944円/月
ブロック紙
媒体名 課金形態 料金
北海道新聞
(どうしんウェブ)
定額課金 紙面購読(4,037円/月)の場合全ての記事を閲覧可能
河北新報
(河北新報オンラインニュース)
定額課金 紙面購読(1,285円~/月)の場合全ての記事を閲覧可能
東京新聞
(東京新聞電子版)
定額課金 3,450円/月
中国新聞
(中国新聞アルファ)
定額課金/
従量課金
3,417円~/月
※紙面購読中の場合追加料金なしで20記事/月まで閲覧可能もしくは345円/で全ての記事を閲覧可能(紙面購読プランによっては追加料金なしですべての記事を閲覧可能)
西日本新聞
(西日本新聞電子版)
定額課金 3,000円/月
※紙面購読中の場合1,000円/月で全ての記事を閲覧可能
スポーツ紙
媒体名 課金形態 料金
東京スポーツ
(東スポ芸能for smartphone)
定額課金 300円程度/月
日刊スポーツ
(各種)
定額課金 108円~/月
日刊ゲンダイ
(日刊ゲンダイDIGITAL)
定額課金 2,200円/月
産経新聞
(サンケイスポーツ)
定額課金 2,000円/月
デイリースポーツ
(デイリー電子版)
定額課金/
部分課金
■PCコース
1890円/月
■アプリコース
1500円~/月
99円~/1記事
専門紙
媒体名 課金形態 料金
日刊工業新聞
(日刊工業新聞電子版)
定額課金 4,320円/月
水産新聞
(週刊水産新聞電子版)
定額課金 29,064円/年
※紙面購読中の場合10,800円/年で全ての記事を閲覧可能
日刊建設工業新聞
(日刊建設工業新聞オンラインサービス)
定額課金 15,120円/3か月
※紙面購読中の場合3,240円/3か月で全ての記事を閲覧可能
日本食糧新聞
(日本食糧新聞電子版)
定額課金 3,909円/月
※紙面購読中の場合1,080円/月で全ての記事を閲覧可能
日刊薬業
(日刊薬業WEB)
定額課金 85,536円/年
※利用端末数により料金追加
漫画・コミック
媒体名 課金形態 料金
マンガワン
(小学館)
従量課金/
個別課金
1日2回、4話分無料閲覧が可能、それ以上は個別課金 20円/1話~
※無料作品あり
ジャンプ+
(集英社)
定額課金/
個別課金
週刊少年ジャンプ定期購読 900円/月~、その他の作品 30円/1話~
※無料作品あり
講談社
(マガジンポケット)
定額課金/
個別課金
週間少年マガジン定期購読 840円/月、その他作品 40円/1話~
※無料作品あり
講談社
(Dモーニング)
定額課金 週刊モーニング定期購読 500円/月
※無料作品あり
Webメディア(自社コンテンツを制作しているサービスをピックアップ)
媒体名 課金形態 料金
講談社
(COURRIER Japon)
定額課金 1,058円/月
※無料記事あり
新潮社
(Forsight)
定額課金 800円/月
※無料記事あり
UZABASE
(NewsPicks)
定額課金 1,500円/月
※無料記事あり
Schoo
(Schoo)
従量課金/
定額課金
9,800円~/年
※無料視聴あり
リクルート
(スタディサプリ)
定額課金 980円~/月
KADOKAWA
(WPJ)
従量課金/
定額課金
972円/月
※無料記事あり

1記事ごとの販売という新たなトレンド

上記のとおり、購読モデルを採用するほとんどの媒体で定額課金が主流となっていますが、近年新たなトレンドとして1記事ごとの販売という新たな仕組みが注目を集め始めています。オランダのコンテンツプラットフォーム「ブレンドル(Blendle)」は参画する様々な媒体の記事を1記事ごとに購読できるというサービスで、The New York TimesやTIMES、THE WALL STREET JOURNALなどの記事を19~39セント(約20〜42円)(雑誌記事は9~49セント(約9〜52円))での販売テストが行われました。また日本ではLINE上で1記事単位もしくは、数記事がパックになった号単位で課金し購読する有料記事を配信できる「Premium Article」が開始され、週刊文春がスクープ記事を100LINEコイン(1LINEコイン2円)で販売しています。「note」は個人が自由にコンテンツを作成して、ファンとのコミュニケーションできるコンテンツ配信プラットフォームで、ノート(1記事)を10円~1万円で販売することが可能です。
定額制が主流となってきている音楽ストリーミングサービスとは逆の流れで、今後どう発展していくのか注目していきたいところです。

改めて見直される広告媒体の価値

デジタル広告マネタイズを取り巻く悪循環を脱する糸口として今回ご紹介した「第三者機関の計測による透明性の確保」と「購読モデルによる課金制の導入」という2つのトレンドは、価値あるコンテンツをユーザーに提供し、ユーザーとのエンゲージメントを高めるという、パブリッシャーとして本質的な取組みが大前提となります。ユーザーは価値を認めない限り1記事のばら売りであっても購読はしません。また、ユーザーとのエンゲージメントが高いコンテンツはサイトへの滞在時間を増やし、広告の視認性を高めるからです。

以前のインターネット広告はダイレクトマーケティングが予算の大半を占め、広告効果を追求した取引形態を中心に業界が構築されていました。しかし、近年はブランディング予算の割合が増しており、ブランド効果が求められるようになってきている中で、業界自体の構造も変わろうとしています。
かつて「枠から人へ」という言葉に象徴されたインプレッション売りの考え方は進化を遂げ、広告枠が設置されている媒体の価値が改めて見直されはじめています。パブリッシャーはこの構造変化をチャンスととらえ、今一度自社の媒体の価値が何なのか(プレミアムな環境なのか、リーチ数なのか、ユーザーの特色なのか、もしくはそれ以外なのか)を再認識しなおすタイミングなのではないでしょうか。

参考文献

Media’s Digital Challenge: Publisher Strategies for Monetizing Content Across Platforms (eMarketer)

お願い

記事に取り上げさせていただいている各メディアのご担当者さま、課金料が変更した場合は大変お手数ですがこちらよりご連絡ください。

ライターの紹介

fluct magazine 編集部

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日本No.1 SSP「fluct」の運用で培った業界知識やノウハウを記事にして発信してまいります。

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