2017年6月14日にニューヨークで行われた、VideoNuze:2017 Online Video Advertising Summitに参加してきました。VideoNuzeとはオンライン動画業界に特化したWebメディアで、VideoNuzeが主催する動画広告をテーマとしたカンファレンスがOnline Video Advertising Summitです。過去に6回開催されており、今回が7回目の開催となります。
アメリカにおける動画広告のトレンドについて、代理店やプラットフォーマー、メディアなど様々な立場のプレイヤーがどう考えているのか、丸一日かけてさまざまなディスカッションが行われました。いくつかのセッションをピックアップしてお伝えしていきます。
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セッションの紹介
Exploring Premium Video’s Winning Formula
動画の勝利の方程式を探る
James Rooke – GM, Publisher Platform, FreeWheel (モデレーター)
Pooja Midha – SVP, Digital Ad Sales & Operations, Disney ABC Television Group
Scott Rosenberg – SVP/GM, Advertising, Roku
Maureen Bosetti – Chief Partnerships Officer, Initiative
動画の消費は、モバイルデバイスに急速に移行しました。これは、あらゆるプレイヤーにとっての大きなチャンスです。動画の領域で勝つには、新たなエコシステムの構築が重要で、広告表示遅延などの動画広告体験の改善は、バイサイド/セルサイド問わずマーケットにとって大きなチャレンジになるだろうという議論がなされていました。
現在の動画コンテンツ、及び動画広告の状況
動画の視聴回数は25四半期連続で成長、それに伴い動画広告視聴も増加しています。コンテンツは5分以上の長尺動画が6割を占め、中でもライブ動画が急成長(前年比+47%)していて、スポーツやニュースといったカテゴリの動画が成長を牽引しています。動画広告視聴完了率については、プレロール広告よりもミッドロール広告の方が高く、動画の種類別では短尺動画よりも長尺動画、長尺動画よりもライブ動画の方が高い視聴完了率になっています(表参照)。デバイス別の動画広告視聴構成比ではOTTインターネット回線を通じて、メッセージや音声、動画コンテンツなどを提供するサービスや事業者のこと。インターネットサービスプロバイダや通信事業者以外の事業者を指すことが多い。動画配信サービスではYoutubeやHuluなどのこと。(32%)とSTB VODSTBとはセットトップボックスの略で、映像コンテンツを受信するために必要な接続機器のこと。VODとはビデオオンデマンドの略で、利用者が好きな時間に希望する映像コンテンツの配信を受けて視聴できるサービスのこと。代表的な例はAmazonの「Fire TV Stick」やAppleの「Apple TV」など。(16%)が急成長しており、Desktopはマイナス、Mobile・Tabletは微増傾向にあります。
プレロール広告 | ミッドロール広告 | |
---|---|---|
Clips ※5分以下の短尺動画 |
70% | 88% |
Full-episoded ※5分以上の長尺動画 |
87% | 98% |
ライブ動画 | 88% | 97% |
Youtubeのスケール・アップが続く中でのマーケットプレイスに対する考え方
動画コンテンツのディストリビューション戦略効率的にコンテンツを消費者に届けるための戦略。具体的には、外部のニュースサイト、ソーシャルメディア、動画メディアなど、さまざまなメディアを活用して効率的にコンテンツをユーザーに届けていくこと。の中で、バイサイドパートナーと一緒に、いくつかのデジタルコンテンツプラットフォームを管理する必要があり、YouTubeのような1つの大きなプラットフォームに集約する方向性ではなくなってくるでしょう。動画コンテンツを全世界に拡散させていくにあたり、地域・カバレッジなど様々な事を考慮に入れる必要があり、バランスを取りながら判断していく必要があります。
ここからのビジネス機会は?
動画を視聴するデバイスが、従来のテレビから、OTTやモバイルなどへシフトしつつあります。実際、オンラインで動画を視聴できるNetflixやHuluなどのサービス利用者が増加しています。OTTは従来のテレビ動画に比べ能動的に動画を視聴するユーザーが多いことから、OTT広告はよりコンテンツにエンゲージメントが高いユーザーにリーチできることが強みになっていくでしょう。 他にも、大きな画面(全画面)、高いビューアビリティ、ブランドセーフな広告配信面といったOTTならではの価値が大きなビジネス機会を生むと考えています。
一方で課題となるのは何でしょうか?
OTT・VODなどはまだ収益化が十分とは言えません。なぜなら、フラグメント化断片化。動画を視聴できるデバイスやプラットフォームが増えたことにより、ユーザーとの接触機会が分断されてきている。が進む中で、計測の難しさが課題としてあり、クッキーベースなど従来の方法でのターゲティングがしにくいためです。ユーザーが複数サービス間を次々に移動する中で、いかにブランドメッセージを届けるか、関係値を構築するかが重要になってきます。広告主観点では複数サービスに出稿し情報や効果が断片化してしまうくらいなら、一つのサービスに統合してもらったほうがありがたいのが本音です。リーチとターゲティング配信をいかに両立するかが、OTT・VOD収益化の課題になってくるでしょう。
OTTの効果計測には、ニールセンやコムスコアが使われており、ROKUもニールセンと計測に関してパートナーシップを組んでこの問題に取り組んでいます。効果計測の民主化・オープン化が必要で、これが遅れるとOTT自体の魅力が広告主に対して保てなくなってしまうでしょう。
また、テレビとデジタルでは別々の提案方法や効果測定、クリエイティブ制作プロセスが存在しています。今後は組織含めて統合的に管理していくことも重要になってくるのではないでしょうか。
このセッションのまとめ:
- プレロール広告よりもミッドロール広告の方が視聴完了率が高い。
- デバイス別の動画広告視聴構成比ではOTTとSTB VODが急成長している。
- ユーザーとの接触機会のフラグメンテーション(断片化)が進んでいる。またそれに伴い、計測が課題となっている。現状では、プラットフォーム間に統一した計測手段がない。
- 計測に関する課題を解決するために、ニールセンやコムスコアが計測ツールを提供している。
- リーチ数を担保しながら、ターゲティングやブランドセーフティなどのバランスをいかに維持していくかを考慮していく必要がある。
How to Monetize Mobile Video’s Coming Explosion
急成長を遂げるモバイル動画の収益化方法
Tim Hanlon – CEO, The Vertere Group (モデレーター)
Justin Fadgen – VP, Business Development, Beachfront Media
Mike Law – EVP, Managing Director of Video Investment, Dentsu Aegis Network U.S.
Brian Danzis – Head of Global Video Monetization, Spotify
Romain Job – GM, Americas, Smart AdServer
スマートフォンの普及、無制限のデータプラン、ソーシャルプラットフォームユーザーの増加などさまざまな要因により、モバイル動画の利用が急激に増加しています。この状況において、モバイル動画における収益を最適化することは、これまで以上に重要になってきています。こちらのセッションでは、「モバイル動画がどのように爆発的に収益を上げるか」というテーマで、チャンスと可能性、そして課題について議論されました。
モバイル動画の今
モバイル動画について話すとき、「モバイル端末での動画体験」のことを議論するのか、「移動中の(on mobility)動画体験」のことを議論するのかによって、その議論の方向性は変わってきます。自宅で視聴するのか、オフィスで視聴するのかによって視聴シーンや視聴態度(Moment)は変わってきますが、同一ユーザーであることを頭に入れておく必要があります。現在、NetflixやAmazonPrimeVideoなどサブスクリプションモデル提供する商品やサービスの数ではなく、利用期間に対して対価を支払う方式のこと。定額制。のサービスが増えている中で、消費者のコンテンツ消費のスタイルが変わってきています。テレビ時代の受動的なコンテンツ視聴ではなく、ユーザーがコンテンツを選択するようになっているのです。
マーケティングファネルの中で、テレビとモバイル動画をどう捉えていくか?
データ×デバイス×場所×シーン(買い物中、旅行中、仕事中など)など、シチュエーションが細分化される中で、いかに適切なメッセージを届けるべきユーザーに伝えられるかが重要です。既存の広告以上に、広告体験を大切にしていかなければなりません。
同じ15秒の動画広告もインストリーム/アウトストリーム、ユーザーの状況、コンテキスト、コンテンツへの興味度などによって最適な内容は変わってきます。位置情報やスクロールやスワイプという行動、音声のON/OFFなど、モバイルならではのユーザー情報を汲み、ユーザーの状況に合わせて広告フォーマットを検討しましょう。モバイルの強みを再認識してテレビ広告とは内容を変えるべきでしょう。
また、プロが制作したプレミアムコンテンツを見る為に動画広告を10秒見る必要があればユーザーは見ますが、自分がアップロードした動画コンテンツに広告が入ってしまうのには違和感を覚えるでしょう。ユーザーの期待値にフォーマットを合わせ、KPIもそれに合わせて変える必要があります。
ソーシャル×動画の考え方
ソーシャルメディアには多くの広告枠があるので、モバイル動画の急激な成長はソーシャルなくして語れません。Twitter、Snapchat、Facebook上での動画消費は増え続けています。しかし、このソーシャルメディアでの動画広告についても、計測の問題が浮上します。インプレッションの定義がプラットフォームごとに異なっているため、同じ予算・数字に対する広告の価値が変わってきてしまいます。各プラットフォームでの効果を、共通指標を用いて計測可能なものにしていくべきです。
このセッションのまとめ:
- モバイルは仕事中、休暇中、移動中など、様々なシーンで使われており、そのユーザーの利用状況に合わせて、広告コミュニケーションを変えるべきである。
- マーケティングファネルの中でテレビとモバイル動画は別物と捉え、それぞれ別のプランニング、KPI設定が必要となる。
- ソーシャルメディア(Facebook、Twitter、Snapchatなど)でのモバイル動画の閲覧が急増している。現在各プラットフォームが個別に行っている計測指標を統一して、広告主が比較しやすいものにしていくべきである。
The Playbook for Surviving and Thriving in the Platform Era
プラットフォーム時代の生き残りと繁栄のためのプレーブック
Lorne Brown – President, SintecMedia (モデレーター)
Paul Marcum – President, Truffle Pig
Michael Shane – Global Head of Digital Innovation, Bloomberg Media
Jarrod Dicker – Head of Commercial Product and Technology, Washington Post
Facebook、Youtubeなどのソーシャルプラットフォームは視聴者獲得と収益化の素晴らしい手段ではあるものの、そこに頼りすぎることはビジネスのコントロールを失うというリスクを孕んでいます。このセッションでは、パブリッシャーがプラットフォーム戦略における機会とリスクのバランスをいかにとって行くべきかというテーマについて話し合われました。
メディアの考えるプラットフォームとの向き合い方
ディストリビューションターゲットユーザーへコンテンツを届けるための流通。デバイスやOTTサービス、ソーシャルメディアなどさまざまな流通経路に対し、どこに何を配信するのかを戦略的に考える必要がある。への挑戦が今のメディアの置かれてる状況です。Facebook, Google, SnapChatなど大手プラットフォームはそれぞれ異なった特性を持っており、それぞれに合わせた戦略が必要になってきます。と同時に、自メディアのアイデンティティーも保つバランスを取ることも重要です。メディアにとって、大量のリーチも、価値のあるオーディエンスもどちらも大切だからです。
Bloombergの場合
Bloombergは「価値のあるオーディエンス」「ユーザーエンゲージメント」「収益」の3つの基準でプラットフォームを評価しています。プラットフォームが送るユーザーと、自メディアが求めるユーザーの間に、どれだけオーバーラップがあるか、がプラットフォーム選びで重要な観点となります。
Bloombergはこうした独自の評価基準から高評価を下したTwitterと連携し、Bloombergのストリーミング動画を24時間Twitterに配信しています。過去には2016年のアメリカ大統領選挙やNFL(プロアメリカンフットボールリーグ)が中継されました。
なお、この独自基準による評価では、facebook活用は重要じゃないと判断しています。
Washington postの場合
コンテンツの拡散をプラットフォームだけに頼るのではなく、パブリッシャー自らの努力も必要です。Washington postでは、REDというR&D(Research and Development、研究開発)チームを自社に持ち、技術やノウハウの蓄積を行っています。また、自社メディアへの広告出稿ツールも内製しています。
このセッションのまとめ:
- プラットフォームはすべて異なり、それに合わせた広告・収益化戦略が必要である。
- メディアの収益化の鍵は質の高いオーディエンスやエンゲージメントにある。
- 技術やノウハウを蓄積し、広告出稿ツールを提供するなど、メディア側の努力も必要である。
Keynote Discussion – Inside Hearst’s Strategy to Succeed in Video
基調講演-動画で成功を収めるハースト社のストラテジー
Troy Young – Global President, Hearst Digital Media
Will Richmond – Editor and Publisher, VideoNuze (インタビュアー)
米大手メディア企業であるハースト社は動画への投資を積極的に増やしています。どのタイプの動画が視聴者に響くのか、どのプラットフォームを活用すべきか等、動画戦略を実行する際に直面する無数の課題を、どう解決しているのでしょうか。長期的な成功を達成するための同社の戦略について語られた基調講演です。
コンテンツ勝負の時代
コンテンツ制作と配信がメディア企業の仕事ですが、両方が同時期にこれだけ変革した事は過去にはありません。私たちがが150年やってきた雑誌の世界はメディアブランド(VOGUE, Cosmopolitan etc.)が全てでしたが、コンテンツがデジタルに移行してからはページベースのディストリビューション戦略が重要になっています。まるでケーブルテレビの市場のように、よりメディアブランドからコンテンツ勝負の時代になってきていると言えるでしょう。
動画コンテンツについて
ケーブルテレビのデジタル動画の台頭によって圧迫されてきていますが、そのリーチとコンテンツの質の高さではまだまだ存在感を放っています。また、ケーブルテレビを普及させてきたやり方はメディアビジネスの良きお手本として見ています。今後はハリウッドやケーブルテレビといった従来の経済圏と、AmazonやNetflixのような新興勢力が作り出す新たな経済圏があり、どちらに向けてコンテンツを制作・配信していくかというバランスが重要になってくると考えています。
ソーシャルプラットフォームとの付き合い方
昨今ではSNSを中心としたネイティブ動画プラットフォームとの向き合い方がより重要になってきています。Facebookからは「動画コンテンツをどんどん配信してほしい」という要請を受けています。ソーシャルプラットフォームにうまく動画を展開している事例としては、ViceやBuzzfeedが挙げられます。Buzzfeedはfacebookとの連携を強化しています。Facebookはソーシャルプラットフォームの中でも最大のプラットフォームだと認識しており、グループサービスであるInstagramも見逃せない存在です。また、こうしたソーシャルプラットフォームへのコンテンツ配信により、視聴者が米国だけでなくグローバルに、ビジネスをよりスケール・アップしやすくなってきています。実際に、Snapchat経由でハースト社の動画を視聴しているユーザーは一日で5-600万人に上ります。
このセッションのまとめ:
- ユーザーにコンテンツを届けるために重視されるものが、メディアブランドではなくコンテンツにシフトしてきている。いかに良質なコンテンツを制作するかが重要になってくる。
- AmazonやNetflixなど、新たなプラットフォーマーの登場が注目されている。彼らといかに連携するかが今後の鍵となりうる。
- ソーシャルプラットフォームへの配信・連携により、視聴者が米国だけでなくグローバルになり配信スケールの拡大が容易になった。
VideoNuze:2017 Online Video Advertising Summitまとめ
日本とアメリカにおける動画ビジネスの大きな違いでもありますが、アメリカではインターネットテレビ、OTTの普及が日本以上に進んでおり、ケーブルテレビからの移行がマーケティング業界でも大きな注目を集めています。議論の中心にはSNSプラットフォーム、そしてテレビ×デジタルがあり、日本におけるテレビの存在感との違いは想像以上でした。
メディアサイドではコンテンツの自社サイトと各プラットフォームを横断したディストリビューション戦略が重要になっており、それぞれの配信先に適したクリエイティブや尺を最適化していくことがメディアとしての成功の鍵を握っています。
いかに、ユーザーのメディア接触のシーンやデバイスなどに合わせたコンテンツを提供し、メディアブランドそのものと合わせてコンテンツを通じたエンゲージメントを高めていくかにかかっています。価値のあるオーディエンスをどんな経路で集客し、それを収益化していくかという視点も重要です。メディアのチャレンジは続きます。
一方でクライアントサイドでは、デジタル化により、ケーブルテレビではあまり懸念されていなかったビューアビリティや透明性、アドフラウドなどの問題が、顕在化してきています。また、複数のプラットフォームを通じて配信がなされることで、オーディエンスとの接点がフラグメント化(断片化)され、結果として、計測、クリエイティブ最適化、ターゲティングのしにくさ等が課題となっています。特にモバイルの台頭により、細分化したオーディエンスにリーチすることが可能になった一方で、考慮すべき要素も増えています。ソーシャルメディアの普及を背景に、グローバルでの動画マーケティングが可能になりつつあり、今後は一つ一つの課題をクリアにした上で、効果的な運用が求められるでしょう。
日本でも、モバイル、ソーシャルを中心に動画体験の拡大は急速に進んでおり、マーケティング環境は大きく変わろうとしています。fluct社としてもこの変化をチャンスと捉え、メディアの成長を共創していくために、プラットフォームの強化や新サービスの提供に努めてまいります。
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